コミュニティマネージャープロフィール《土屋》

コミュニティマネージャープロフィール《土屋》

土屋真満さん(31)はRYOZAN PARK大塚のコミュニティコーディネーターである。大塚のメンバーは現在約80人。その対応を一手に引き受けている。朝はオフィスを利用しているメンバーへの声かけから始まり、備品やフリードリンクのチェックや補充など、隅々に至るまで目を配る。さらに、他テナントも含め、ビル全体の管理もしている。


土屋さんのユニークな経歴は、高校3年の夏にさかのぼる。ひとり日本を脱出し、向かったのは、縁もゆかりもないスウェーデン。ストックホルムにある高校へ編入したのである。いまどきは高校生の長期海外留学も珍しくはないが、一般的には、親の強い後押しによることが多い。だが、土屋さんはすべて自分で決断し、行動をおこした。高校2年生のころから留学について調べ始め、1年がかりで情報収集。「友人たちと楽しい学校生活を送っていたけれど、漠然と将来に不安を覚え、学ぶ意義がわからなくなっていたんです」と苦笑いする。退学を考えたこともあったという。

当時VOLVO、IKEA、H&Mなどといったスウェーデン企業が日本市場でも躍進し、魅力的に感じた土屋さん。だが、彼らの文化についても何も知らないことに気づく。「だったら、私が行ってみよう、自分で見てみよう!」

 

親の承諾が必要になる段階で初めて両親に打ち明けたが、両親は猛反対。だが、そんなことでめげる彼女ではない。家族への説得を続けつつ、さらに着々と手配を進めた。結局、その熱意に両親が折れ、これまで積み立ててくれた学資保険をおろしてくれた。

意気揚々と日本を飛び出したが、現地での生活は甘くはなかった。そもそもスウェーデン語がまったくできない。高校に行っても、最初は自分の席を温めるだけのお客さん状態。滞在していたホームステイ先でも、普段の日常会話はスウェーデン語で交わされた。現地では英語も話せる人がほとんどだが、彼らの母語に慣れなければと覚悟を決め、ひたすら我慢の日々。そのころはまだ日本語⇆スウェーデン語の辞書も充分なものがなく、英語を通して、なんとかその意味にたどりつけることも少なくなかった。そんな時間が3~4か月。授業も日常会話も少しずつ理解できるようになった。ホストファミリーも懸命にサポートしてくれ、学校でも唯一の日本人学生に皆親切で、ありがたかった。

 ホストファミリー

1年の留学期間を終え、日本に帰国。同級生たちは、すでに高校を卒業していた。2009年10月、かつての学び舎でひとりだけの卒業式が執り行われた。国内外を問わず、大学に進学することも考えたが、専攻が絞れなかった。学資保険を前借りしていたこともあり、「本当に勉強したくなったら、その時に行こう」。そう思い、働く事を選んだ。

就職先はH&M。やはりスウェーデンとつながった。2009年当時、H&Mは、日本での店舗拡大を目指し、勢いにのっていたころ。堅苦しくなく働きやすい環境だったという。スウェーデン人の上司とスウェーデン語で話せることも刺激的だった。新店の立ち上げにも関わるなど、いくつかの店舗で店頭に立ち、セールスに邁進した。

2年間勤めたH&Mを去り、語学学校を紹介する海外留学エージェントへ転職した。自身の体験から、留学を希望しながらも踏み出せない人たちのサポートをしたいという気持ちが強くなってきたからだ。営業職として、学生たちの背中を押す役目に徹した。

その後、気になり始めたのは、障がい者の就職というキーワード。スウェーデンでは、障がい者のほか、LGBTQや外国からの移民など、社会が多様な人たちで構成されていると実感したことも大きかった。

2015年、障がい者福祉を事業とするソーシャルデザインワークスで働くことになった。会社は福島県いわき市にあり、東京と行き来する生活に大きく変化した。その後、東京事務所の開設に向けて動き出す。適当なオフィスを求めるなか、偶然RYOZAN PARK大塚を見つけ、即契約。シェアオフィスメンバーに加わった。

いわき市通いを続けていたころから、ごみ拾いを通じて街づくりを行うNPO法人グリーンバードにボランティアとして関わり始めた。日本のいくつかの都市のほか、世界にも拠点がある一大組織である。気づいたら、いわきの2代目チームリーダーに。福祉の仕事と並行して、ごみ拾い活動を続けた。2020年1月からは、ボランティアではなく、正式スタッフになった。

一方、大塚でシェアオフィスを借り始めたあと、オーナーとも親しくなり、住まいも巣鴨のRYOZAN PARKシェアハウスに移した。2019年年12月からは、コミュニティコーディネーターに就任。現在、RYOZAN PARKのスタッフとして、週3日勤務している。そのほか、毎週水曜日は、原宿にあるグリーンバードの事務所で経理等を担当する。さらに別の日には、友人の会社もサポート。出勤する場所も仕事内容も異なるが、バランスを取りながら、それらと向き合っている。


シェアハウスで出会った男性と2017年に結婚。仕事でもプライベートでも、この会社との縁が今につながっている。これまでの経験を活かし、ここでどう貢献できるか模索中だと語る。

自分の直感を信じ、まっすぐに前を見て突き進む潔さ。すべてを成長の糧にし、次なるチャレンジへと向かう姿が、なんともたくましい。

取材・文 伊藤ひろみ



内覧予約・お問い合わせ